- タイの外交官Manchulika Wongchaiさんは、2025年2月に広島で開催された第10回「核軍縮・不拡散広島研修」に参加しました。
- Manchulikaさんは、軍縮における新興技術の影響を考慮する重要性を強調しています。
- この研修で得た知見は、核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議への準備に役立ちました。
- 彼女は他の外交官との交流に勇気づけられ、若者が外交官を目指すことを後押ししたいと考えています。
2025年3月26日、広島 – タイ外務省国際機関局平和・安全保障・軍縮課の三等書記官であるManchulika Wongchaiさんは、2025年2月に広島で実施された国連ユニタール核軍縮・不拡散広島研修に参加した15名のうちの一人です。
点と点をつなぐ:核軍縮、急速な技術革新、そして外交
タイは核軍縮に積極的に取り組んでおり、核兵器禁止条約(TPNW)の採択にあたって署名・批准を行った最初の3か国のうちの1つです。また、域内における核兵器を禁止し、国際の平和と安全の促進を目的として設立された、東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ、通称バンコク条約)の締約国でもあります。
TPNWは2021年1月22日に発効し、核軍縮への包括的なアプローチをとっています。締約国は、核兵器の開発、保有、貯蔵、使用、あるいは使用するとの威嚇を行わないことに合意しています。
Manchulikaさんは「より多くの国がTPNWに参加すれば、核兵器の完全廃絶という共通の目標を達成できる」と述べています。
彼女の職務は、国連総会第一委員会に関わるもので、核軍縮と不拡散のほか、国連の枠組み内でのサイバーセキュリティやサイバー犯罪にも関与しています。Manchulikaさんは、現在の軍縮に関する国際的な議論が停滞していると見ており、サイバー、人工知能(AI)、宇宙技術の急速な発展を考慮する必要があると述べています。さらに、「これらの技術が誤用されたり無責任に使われたりすれば、国際平和と安全保障に深刻な脅威をもたらす可能性がある」との見解を述べています。
外交官として、彼女は核兵器に対する各国の立場の背後にある技術的・科学的根拠を理解する必要があります。このことは、異なる分野への異動がある外交官のキャリアにおいては大きな挑戦ともなります。Manchulikaさんは、二国間関係の担当から現在のポストへと異動した際、習得しなければならないことが山積みでした。その中で、国連ユニタールの研修はすぐにも役立つ実用的なものでした。
この研修を通じて点と点がつながり、タイがこの重要な枠組みの中で果たせる役割が見えてきました。— Manchulika Wongchai、外交官、国連ユニタール研修修了生、タイ
国連ユニタール研修:広島からの教訓
2015年から毎年、広島で開催されている国連ユニタールの「核軍縮・不拡散広島研修」事業は、外交官が交渉スキルを磨き、核軍縮と不拡散をより効果的に推進できるよう支援することを目的としています。今年で10回目を迎えるこの事業は、広島県と広島市からの支援を受けて実施されてきたものであり、国連ユニタール協会の協力も得ておこなわれています。
広島では、参加者は原爆が広島市民にもたらした被害と、現在も続くその影響を目の当たりにしました。彼らは広島平和記念公園と平和記念資料館を訪問し、被爆者講話では被爆の証言を聴きました。また、核軍縮の専門家や官公庁、非営利団体、被爆者との意見交換を通じて、広島の歴史と核兵器の影響に対する包括的な視点を得ることができました。今年は若者向けのセッションも含まれ、「被爆80年核兵器をなくす国際市民フォーラム」にも参加しました。
この研修は、Manchulikaさんが原爆の人道的影響をより深く理解する機会となりました。また、2025年3月に行われたTPNW第3回締約国会議に向けて、その新たな知見とスキルを活用する方向性を示してくれました。
さらに、アジア太平洋地域から参加した若手外交官たちとの交流を通して、核軍縮を推進するという共通の目標を持つ仲間とのつながりも構築することができました。Manchulikaさんは、今後もこの関係が各国の連携を通じて続いていくことを期待しています。
特にASEANの仲間たちとの交流がとても楽しかったです。まるで家族のような一体感があり、この分野で長くともに働くことになると思うと、ネットワークを維持していきたいと思っています。それはまるで、生涯にわたる友情であり、プロフェッショナルな関係でもあると感じています。
外交への道:若者へのインスピレーションと新興技術への対応
Manchulikaさんが抱く願いのひとつは、若者が外交官というキャリアを志すことを後押ししたいということです。彼女自身、独裁政治とポストコロニアリズムについて書かれたタイ人外交官の著書に影響を受け、外交官になりました。国際的な視野を広げ、調和ある国際関係を支えたいと願う若者にこの道を勧めています。
外交官として、日々の業務に埋もれてしまうこともありますが、常に意識的に新しいことを学び続ける姿勢を持ち、自分の人生の目標を見失わないことが大切です。
Manchulikaさんは、特に新興技術の脅威が増している現在、核戦争のリスクを排除するための取り組みを強化すべきだと考えています。彼女は、自国および地域における能力構築イニシアチブの強化を訴え、核リスクの発生を未然に防ぐことの重要性を強調しています。また、急速に競争が激化する世界において、発展途上国を支援し、国家の利益を守るために、新興技術の平和と安全保障への影響についての知識を深め、外交政策提言に貢献したいと語っています。彼女は、被爆80年の節目である今年、タイ国内で原爆投下に関する認識を高め、将来的には自国の利益を守るための外交政策提言に携わりたいと考えています。
※本記事の執筆には国連ボランティア Freya Schischkaさんが協力しました。
英文は以下からご覧いただけます。
Learning from Hiroshima about Nuclear Disarmament: Thai Diplomat Manchulika Wongchai | UNITAR
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国連訓練調査研究所(ユニタール)は、研修事業に特化した国連機関です。2023年には、世界中で54万人以上が受講し、より良い未来の実現のために世界各国の人材育成を支えています。ジュネーブ本部のほか、広島、ニューヨーク、ボンに事務所を構え、世界中にネットワークを持っています。詳しくは国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所をご覧ください。