- 広島在住の高校生、金沢晶豊(かなざわ・じんと)さんは、2025年に国連ユニタールが実施した「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」研修を修了しました。
- 晶豊さんは、AIやデジタルツールを、平和や持続可能な開発目標(SDGs)と結びついたストーリーを生み出すために、思慮深く活用する方法を学びました。
- 学びを生かし、被爆者である曾祖母の体験を風化させないため、約10分間のデジタルストーリー作品を制作しました。
2025年1月22日、広島-金沢晶豊さんは、広島に住む高校生です。2025年、彼は国連ユニタールが実施した「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」研修に参加し、AIやデジタルツールを活用して、平和やSDGsと結びついた個人のストーリーを発信する方法を学びました。
晶豊さんの曾祖母は被爆者ですが、その体験を公の場で語ったことはありませんでした。家族の中だけで語り継がれてきた記憶が、時とともに失われてしまうのではないか——そんな思いが、晶豊さんを国連ユニタールの研修事業へと導きました。デジタルストーリーという手法が、個人の記憶を未来へつなぐ力になるのではないかと感じたのです。
「曾祖母は長い間、その体験を胸の内にしまってきました。家族以外には誰にも話していません。だからこそ、僕がそのストーリーを伝えることで、彼女が経験したことが忘れ去られないようにしたいと思いました」ー 金沢晶豊、国連ユニタール研修参加者(日本)
「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」研修事業は、AIやデジタル技術を活用しながら、若者一人ひとりの視点からSDGsの達成や平和の実現に貢献することを目的とした国連ユニタールの人材育成プログラムです。被爆80年記念事業として、広島市および広島県の支援のもと、アジア各地および広島の若者を対象に、2025年6月から11月にかけて実施されました。オンライン学習と広島でのスタディツアーを組み合わせた構成で行われました。参加者は個々にデジタル・ストーリーテリング作品を制作し、11月に開催された公開ワークショップで発表しました。
「AIスロップ」から、意味あるデジタル創作へ
研修事業に参加する以前、晶豊さんはAIの活用に対して必ずしも肯定的ではありませんでした。SNSなどで目にする、内容が浅く量産された「AIスロップ」と呼ばれるコンテンツに違和感を覚えていたからです。しかし、国連ユニタールの研修事業を通じて、AIは思慮深く使い得ることを学びました。
特に印象に残ったのが、AI映像専門家・肖雲鵬氏による講義でした。文章による指示から映像を生成できることは知っていましたが、より高度な映像的コンテンツを生み出せることを初めて学びました。AIが単なる効率化の手段ではなく、表現の可能性を広げる創作パートナーになり得ると実感しました。
また研修では、デジタルツールの力を新たに学びました。日本マイクロソフト株式会社の協力で実施したセッションでは、教育版マインクラフトを活用し、原爆投下前の広島の街並みを再現しました。当時の人々の暮らしを立体的に理解することができ、ゲームとして親しんできたツールが、学びを深める教育手法になり得ることに驚いたといいます。
さらに、広島平和記念公園を巡るバーチャル・リアリティ(VR)体験も、晶豊さんの印象に強く残りました。平和記念資料館ではこれまでも展示を見てきましたが、VRによって再現された空間に身を置くことで、原爆投下の出来事がより切実で身近なものとして感じられ、新たな形で歴史を学ぶことができました。
「資料館では写真や遺品を見ることで歴史を学びます。このような方法も一つではありますが、なかなか身近に感じ取ることが難しいのも事実です。VRではその場に入り込む感覚があり、何が起きたのかを自分事として考えることができます」
曾祖母の物語に命を吹き込むデジタル作品
研修事業で得た学びは、晶豊さんの最終成果物であるデジタルストーリー作品に結実しました。完成させたのは、原爆投下前後の曾祖母の人生に焦点を当てた約10分間の映像作品です。記憶をテーマに、被爆という体験を胸に抱えながらも、その後の人生を生き抜いた曾祖母の姿を丁寧に描きました。
制作過程では、研修事業で学んだAIやデジタルツールを活用し、映像素材の生成、音楽の選定、AIによる音声表現などを組み合わせました。一方で、AIが生成する映像の一貫性を保つことや、音楽やナレーションの感情的なトーンを調整することには多くの試行錯誤が必要でした。
完成後、家族や教員から寄せられた「とても心に残った」「思わず涙が出そうになった」といった反応は、作品のメッセージがしっかりと伝わっていることを示していました。
見えなかった物語に気づき、平和への視野を広げる
国連ユニタールの研修事業は、晶豊さんに新たな視点をもたらしました。アジア各国から集まった参加者と出会い、それぞれの社会課題や背景に触れることで、これまで考えたことのなかった現実を知る機会となりました。
広島でのスタディツアーでは、グリーン・レガシー・ヒロシマの取り組みについても学びました。普段何気なく目にしていた街路樹が、原爆を生き延びた被爆樹木の苗木から育ったものであると知り、スタディツアーの風景の中に深い歴史と意味が込められていることに気づかされました。
将来、晶豊さんは国際問題や平和分野に関わる進路を志しており、世界各地で人々が直面している課題について学び続けたいと考えています。そのような中、デジタルストーリーテリングは、個人の記憶と国際社会における平和の議論をつなぐ有効な手段になると感じています。
「曾祖母の体験は数ある物語の一つにすぎませんが、こうした個人の経験を理解することが、戦争や紛争の代償を知るうえでとても大切だと思います。この作品が、平和の大切さを考えるきっかけになればうれしいです」
国連ユニタールについて
国連訓練調査研究所(ユニタール)は、研修事業に特化した国連機関です。2024年には、世界中で約55万人が受講し、より良い未来の実現のために世界各国の人材育成を支えています。ジュネーブ本部のほか、広島、ニューヨーク、ボンに事務所を構え、世界中にネットワークを持っています。2003年に設立された国連ユニタール広島事務所は、平和と復興の象徴である広島を拠点に、平和構築や核軍縮、紛争や災害からの復興に関する国際的な研修を展開し、世界の持続可能な平和と繁栄の実現に貢献しています。https://unitar.org/ja/hiroshima