• Mohseen Riaz-Ud-Deanさんは、フィジー出身の国連開発計画プログラム・アナリストです。子供の頃にサイクロン・キナを経験したことで、災害への備えの大切さを学びました。
  • 2024年、Mohseenさんは日本政府の支援により実施された国連ユニタールの「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応」研修に参加しました。
  • 日本の早期警報システムに強い影響を受けたMohseenさんは、これを太平洋地域に適応できる形で導入するアイデアと、強力で幅広い関係者との連携やコミュニティ主導の災害リスク管理に対する信念を胸にフィジーへ戻りました。
  • 彼は、すべての太平洋諸国が災害を予測し、早期に行動できる早期警報システムを備えた未来の実現を目指し、理論と実践の橋渡しをしたいと考えています。 
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2025年12月8日、広島-Mohseen Riaz-Ud-Dean さんが幼い頃、自国フィジーをサイクロン・キナが襲い、彼の自宅が浸水するという被害に遭いました。「家が完全に水の中に沈んでしまいました。荷物をすべて持って高い場所へ避難しなければなりませんでした」と、当時を振り返ります。彼はこの体験が、島国の脆弱さと「備え」の重要性を思い知らされたと言います。 

現在、彼はフィジーにある国連開発計画(UNDP)太平洋事務所のレジリエンス・気候変動ユニットに所属し、プログラム・アナリストとして働いています。彼のチームは、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツの10の太平洋諸島国が、海面上昇や激甚化する嵐、生物多様性の喪失などに備えて対応できるよう支援しています。彼が参加した国連ユニタール「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応」研修は、こうした国々における早期警報システムの開発を支援するための能力向上に役立ちました。 

太平洋地域における防災の課題

太平洋の島々では、海面上昇、強力なサイクロン、洪水などにより、人々の日常生活はますます大きく影響を受けています。「私たちは気候変動によって存在そのものを脅かされる危機に直面しています。」とMohseenさんは言います。各国の防災庁や気象庁、通信省が早期警報システムを整備しているものの、遠隔地のコミュニティまで警報を確実に届けることは依然として大きな課題となっています。 

災害は止まることがありません。むしろ頻度も強度も増しています。私たちにできるのは、レジリエンスを強化し、よりよく備えることだけです。

彼は、長期的なレジリエンスにはテクノロジーだけでなく、強固な制度や早期対応の価値を理解した人々の力が欠かせないと強調します。 

国連ユニタールで学んだ早期警報システムの実践

Mohseenさんは、同僚のソーシャルメディアの投稿で、国連ユニタールの2024年度「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応:だれ一人取り残さないために」研修について知りました。理論、実践応用、国際協力が融合した内容に惹かれて、太平洋全域から約200名が参加するオンラインフェーズに参加しました。 

日本政府と日本国民の支援により実施されたこのプログラムは、太平洋島嶼国の個人と地域が気候関連災害や異常気象に備え、早期警報システムを普及、監視、運用できるよう訓練することを目的としています。20247月から11月にかけて、2つのフェーズに分けて実施されました。 

1フェーズでは、オンライン学習とウェビナーを通じて、早期警報システムの構造、協力、適時の情報伝達の重要性を学習しました。Mohseenさんは、「自分のペースで学習を進められる点を評価しており、理論と実際のケースを組み合わせたインタラクティブな構成が非常に魅力的だった」と語っています。 

その後、Mohseenさんを含む成績上位者約30名が、研修第2フェーズの日本での対面ワークショップに参加しました。日本では防災管理センターや洪水制御施設、大学を訪問し、専門家による講義を受け、自国に適した早期警報システムの導入に向けた行動計画を策定しました。 

他国の経験から学ぶことに熱心なMohseenさんは、研修プログラムで扱われる幅広いテーマに興味を持ちました。例えば、海洋と沿岸地域におけるリスク、脆弱なグループへの災害の影響、連携とコミュニケーションなどです。中でも特に彼の関心を引いたのは災害廃棄物管理に関するセッションでした。2022年のフンガトンガ火山の噴火と津波で浮き彫りになった課題を踏まえて、災害廃棄物管理に対するより効果的な対応策の必要性を痛感したといいます。 

Mohseenさんが日本で特に注目したのは、政府、地域、機関などのあらゆる関係者が早期警報システムに取り組み、既存のシステムの継続的な改善に力を注いでいる点でした。 

日本では、継続的改善という概念が浸透していると感じています。 今日より明日、明日よりその翌日にはさらによいものにしようという考えが根付いているのです。

活力をもらったMohseenさんは、日本の早期警報システムを太平洋地域の状況にどのように適応できるかというアイデアを持ち帰り、政府、地域社会、そして退職者さえも含めた強固な連携強化の重要性について、一層深い確信を抱きました。退職者は自身の経験や視点を地域の対応に活かすことができます。 

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コミュニティ主導の防災を実践

フィジーに戻ったMohseenさんは、研修での学び、特に地域社会に基づく災害管理の概念を即座に実践し始めました。7か国で進行中の早期警報プロジェクトの一部として、フィジー国内で地域主体の防災管理を導入したのです。Mohseenさんは、現場に最も近い人々、つまり日常的に災害に直面し、早期警報を受信した時に迅速に行動する必要がある人々こそ、課題解決の鍵を握ると考えています。 

実務にあたる立場として、Mohseenさんは自分の役割を、これらのコミュニティとその問題を理解し、コミュニティに適用可能でありながら国家の目標も達成できる解決策を共に考え出すことだと考えています。 

私たち実務者は、災害時に人々が直面する問題を理解し、それに即した解決策を考える必要があります。コミュニティに適用でき、かつ政府の使命達成にも資する解決策を見出すことが重要です。

今後は、人材育成やコミュニティのレジリエンス、政策の整合性強化を通じ、理論を実生活に導入していきたいと考えています。また、限られた人的・財政的資源にも注目し、太平洋諸国が気候ファイナンスや気候変動への適応、早期警報システムの強化のための技術支援の拡大についても注力していく予定です。 

未来への展望:備えある太平洋へ

Mohseenさんの目標は、太平洋のすべての国が災害を発生前に予測できるツールとシステムを備え持つことです。彼は、太平洋の先駆者たちがレジリエンス構築のリーダーとして活躍できるネットワークを育んでくれた、と感謝の気持ちを述べるとともに、国連ユニタールと同事業を支えてくれた日本に心からの感謝を表しています。 

私たちは今、早期警報システムの先駆者として、よりよい立場にあります。太平洋地域では、日本で学んだ30名の仲間とともに、知識を共有し、将来の自然災害に対してよりレジリアンスのあるコミュニティを築いていきたいと思っています。

Mohseen Riaz-Ud-Dean、UNDPプログラム・アナリスト/国連ユニタール研修修了生(フィジー) 

Mohseenさんは、パートナーシップ、地域の知恵、そして継続的な学びが重要であるという信念のもと、同僚の専門家たちに、より安全な太平洋地域を築くために、国や分野を越えて協力し続けるよう呼びかけています。 

 

英文記事はこちらからご覧いただけます。 

Building Pacific Resilience through Early Warning Systems: Mohseen Riaz-Ud-Dean | UNITAR

本記事の執筆には国連オンラインボランティアMohammad Abu Sayemさんが協力しました。  

国連ユニタールについて

国連訓練調査研究所(ユニタール)は、研修事業に特化した国連機関です。2024年には、世界中で約55万人が受講し、より良い未来の実現のために世界各国の人材育成を支えています。ジュネーブ本部のほか、広島、ニューヨーク、ボンに事務所を構え、世界中にネットワークを持っています。2003年に設立された国連ユニタール広島事務所は、平和と復興の象徴である広島を拠点に、平和構築や核軍縮、紛争や災害からの復興に関する国際的な研修を展開し、世界の持続可能な平和と繁栄の実現に貢献しています。https://unitar.org/ja/hiroshima

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