- 11月22日、太平洋島嶼国11か国からの29名の研修参加者は、災害リスクを軽減するための早期警報システムのツールや手法について学ぶ日本でのスタディツアーを終え、「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応:だれ一人取り残さないために」研修事業の第2フェーズを修了しました。
- スタディツアーで参加者らは広島、京都、神戸、首都圏(東京都、千葉県柏市、茨城県つくば市、埼玉県春日部市)を訪れ、専門家による講義や交流、現地視察を通じて、日本の早期警報システムに関する実践や技術、研究について理解を深めました。
- スタディツアーの最終日、参加者は12日間の研修を通して練り上げたプロジェクト計画を発表しました。これらの計画は、参加者が母国で災害リスク軽減の取り組みとして実施することを想定して策定されました。また、閉会式が行われ、参加者には修了証書が授与されました。
2024年11月22日、広島ー太平洋島嶼国11か国からの29名の参加者が災害リスクを軽減するための早期警報システムのツールや手法について学ぶために来日し、11月22日のスタディツアー最終日をもって、「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応:だれ一人取り残さないために」研修事業の第2フェーズを修了しました。同事業は、日本政府および日本国民の資金援助を受けて、国連訓練調査研究所(ユニタール)が実施しています。
この学びの旅の集大成として、参加者らは12日間の研修を通して練り上げたプロジェクト計画を発表しました。日本での現場視察や講義を通じて得た知見を反映したこれらの計画は、参加者が帰国後、それぞれの国で災害リスク軽減の取り組みとして実施される予定です。
日本では、参加者は広島、京都、神戸、首都圏(東京都、千葉県柏市、茨城県つくば市、埼玉県春日部市)を訪れ、専門家による講義や交流を通じて、早期警報システム、効果的な協力体制、タイムリーな情報発信などについて学びました。
広島での研修
2024年11月11日、太平洋地域の研修参加者は、広島大学の教授より、熱帯低気圧と気候変動の関係性について講義を受け、学びの旅を開始しました。
また、2014年の豪雨災害の惨事を語り継ぎ、二度とこのような苦しみを繰り返さないようにとの願いを込めて建設された広島市豪雨災害伝承館を見学し、被災者でもある館長から、災害発生時の経験や、地域の復興と今後の自然災害への備えに関する取り組みについてお話を聞きました。
日本の被災者の証言は、とても心を揺さぶられます。過去に経験された災害の恐ろしさについて分かりやすく話してくださりました。また、これらの過去の経験を今の自分たちの生活や将来の世代が危機を予測するためにどのように応用しているのかを学ぶことができ、非常に感動し、刺激を受けました。―Rebecca Tavioni、研修参加者(クック諸島)
私が学んだ重要な収穫は、ストーリーテリング(語り聞かせ)です。メラネシア地域の文脈では、ストーリーテリングは強力なツールになります。私たちは、先祖がどのように歴史や記録を文書に残し、ストーリーテリングを通して若い世代にメッセージを伝えてきたかを学びました。この手法を母国に持ち帰るための技術や知識について深く学びを得ました。―Mathew Kuraiwae、研修参加者(パプアニューギニア)
広島テレビ放送株式会社本社への訪問では、国が主導する災害リスク軽減のための情報発信の取り組みに沿って、人々の生命を守るための早期警報シグナルを市民に伝えるメディアの役割について理解を深めました。
参加者は広島県より、県内の災害リスクの状況や災害への備えのための活動について、ひろしまNPOセンターよりインクルーシブな災害リスク情報に関する講義を受けました。また、広島市より災害リスクをタイムリーに市民に伝えるためのモバイルアプリケーションの活用についての講義も受けました。
日本は、早期警報システムに対するアプローチを積極的に行い、災害への備えを重視しています。広島県庁の例を挙げると、さまざまな種類の災害に対する住民の備えという点で、非常に実践的な方法を取っています。意識の向上と地域社会の関与は大切なことであり、私はそこを重視している点がとても気に入っています。―Rachel Nunn、研修参加者(サモア)
また研修参加者一行は、11月12日に玉井優子広島県副知事を表敬訪問し、平和と復興を象徴する広島での学びを共有しました。玉井副知事は、広島から開始したこのスタディツアーの参加者を歓迎し、この日本での学びの旅が引き続き充実したものとなるよう、参加者らを励ましました。
京都と神戸での研修
その後参加者は、京都大学防災研究所での講義に参加しました。京都大学と立命館大学の教員・研究者より、地域に根ざした早期警報システムや京都府の文化遺産を災害から守る取り組み、また、京都市役所と総務省消防庁消防大学校(消防研究センター)の研究者から、京都市の防災対策や国内での早期警報システムの枠組みについて学びました。
また、参加者は神戸にある阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターを見学しました。1995年の大地震を経験した職員によるお話を直接聞くなど、6,400人以上の死者を出した大震災の教訓を学ぶ貴重な機会となりました。
日本は非常に悲惨な状況を経験しながらも、日本の人々の復興に向けての気力と、語ることを通じてコミュニティを強化し、教訓を受け継いでいく取り組みに、私は勇気づけられました。私たちはネガティブな話を共有することを敬遠しがちですが、ネガティブな話こそ、私たちが目を向け、そこから志を引き出すことができるものなのです。―Mere Vukialau,、研修参加者(フィジー)
東京・首都圏での研修
スタディツアー後半は首都圏で行われました。研修参加者は東京大学柏キャンパスにて、世界銀行の専門家から災害リスク管理のための国際的な枠組や取り組みなどについて、また東京大学グローバル水文予測センターの教授より世界の水害発生の分析や予測についての講義を受けました。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターへの視察では、衛星を利用した地球観測やデータ収集によるアジア太平洋地域の防災のための国際協力の取り組みなどについてお話を聞きました。
早稲田大学では、津波災害への対応に関するケーススタディや、沿岸域の災害リスク軽減のための沿岸工学について学びました。
さらに一行は気象庁を訪問し、日本全国に早期警報を発令する中央機関としての役割などについての講義を受けました。
科学を活用し、それを伝統的な知識と融合させて技術を強化しています。科学と研究の分野で地域の組織と連携することで、研究に基づいた結果であることを意志決定者らに説得し、意思決定プロセスに影響を与えているのです。-Peni Seru、研修参加者(フィジー)
研修参加者は、災害リスク軽減の実践的な応用の現場も視察しました。東京大学の研究者の案内のもとで実施した千葉県の柏の葉スマートシティの視察では、災害に強く、気候変動に配慮した包摂的な都市開発についての見識を深めました。東京の江東・江戸川地区では、洪水や海面上昇から地域住民を守るための海岸工学ソリューションの現場を視察しました。また、世界最大級の放水施設である埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路を見学し、最先端のインフラを用いて首都圏の膨大な人口を洪水から守る日本の取り組みについて学びました。
11月21日、参加者一行は松本尚外務大臣政務官への表敬訪問を行いました。参加者の代表3名が日本スタディツアーでの学びを共有し、松本政務官からは参加者の防災分野での今後の活躍を期待する激励のお言葉をいただきました。
スタディツアーの最終成果と今後
日本での研修最終日である11月22日、参加者は今回の研修のまとめとして、スタディツアーで得た学びを自国の文脈に合わせた早期警報システムの設計にどのように活かしていくかについて、グループ別発表を行いました。
同日、研修第2フェーズの修了を記念する閉会式が、国連大学で開催されました。式典では、以下の来賓の方々が出席されました。
- 外務省 安藤重実地球規模課題総括課長
- 駐日トンガ王国大使館 テヴィタ・スカ・マンギシ特命全権大使
- 駐日サモア独立国大使館 ヘレン・タヌバサ・チョウ・リー 参事官/公使代理
- 在日フィジー共和国大使館カラライニ・ベロ・サニア二等書記官
閉会式で国連ユニタール広島事務所三上知佐所長は参加者に祝辞を述べ、早期警報システムに関する知識とスキルの習得に向けた参加者らの継続的な努力を称えました。さらに、今回のスタディツアーでの学びを具体的な行動につなげることを通して災害から人命を守り、地域社会での防災力を高めるよう激励しました。
皆さまはもうすぐ母国に戻られますが、あなた方の取り組みはこの研修プログラムの枠を遥かに超えた影響力を持っていることを忘れないでください。早期警報システムや迅速な対応への取り組みは、人命を守り、災害の被害を軽減し、レジリエンスを育むための強力な手段です。あなた方は今、より高度な戦略、災害リスク軽減に対するより深い理解を得ました。そしてあなたの使命を支える志を同じくする仲間や専門家のネットワークもできました。― 三上知佐 国連ユニタール広島事務所長
また、安藤重実課長より、プログラム第2期の成果を称える修了証書が参加者に授与されました。
国連ユニタールは、日本政府からの同事業へのご支援に心より感謝申し上げます。また、参加者のために時間と専門知識を惜しみなく提供してくださった研修講師、研究機関、団体の皆様に深く感謝申し上げます。
「早期警報システムを用いた気候危機への緊急対応:だれ一人取り残さないために」研修事業について
同研修事業は、太平洋島嶼国の人々や地域コミュニティが自然災害の早期警報信号を効果的に伝達、監視、分析し、対応するための知識と技能を習得することを目的としています。これにより、人命を救い、社会経済への災害被害を軽減することに貢献します。
オンラインで実施された研修第1フェーズには、太平洋島嶼国16か国から集まった200名を超える熱心な 実務者や専門家が参加しました。受講生らは、2か月間にわたるオンライン学習を通じて、早期警報シス テム(EWS)に関するリスク評価やツール、知識、技術についての理解を深めました。
この事業は、国連ユニタールが日本政府の資金提供により実施する「しまなみコレクティブ」プログラム の一環として実施されています。同プログラムは、特に若者と女性のエンパワーメントに重点を置き、ア ジア太平洋地域災害に対するレジリエンスの構築と海洋と人間の安全保障強化のための一連の研修プ ログラム(「海洋と人間の安全保障」、「早期警報システム」、「津波防災に関する女性のリーダーシップ」) で構成されています。
国連ユニタールについて
国連訓練調査研究所(ユニタール)は、1963年の設立以来、研修事業に特化した国連機関として、世界各国の人材開発を支えています。2023年には、54万人以上が受講。ジュネーブ本部のほか、ニューヨーク事務所、広島事務所、ボン事務所があり、様々なネットワークをもっています。2019年からは持続可能な繁栄局(Division for Prosperity)のもと、広島事務所と、ジュネーブ本部の財政・貿易ユニットの職員がともに、起業やリーダーシップ、貿易と金融、デジタル技術、軍縮などについてプログラムを展開しています。紛争後復興の過程にある国の人々への研修などには、原爆投下後から現在の平和都市に至る過程を一つの復興モデルとして講義に組み込むなど、平和で公正な社会の実現にも貢献しています。