• イラク南部出身のMohammed Albadriさんは、大学で医用生体工学を学んだ後、食料不安問題に精力的に取り組んでいます。
  • イラクの農業は、干ばつと水資源不足に悩まされています。
  • 彼は、農業にハイドロゲルを用いて水の使用量を削減しつつ、生産量を維持するというアイデアの事業化を試みています。
  • 2024年に実施された国連ユニタールの「エジプト、イラク、レバノンにおける食料安全保障と経済発展の促進のための起業家精神とイノベーション」研修事業に参加しました。
  • Mohammedさんにとってこのプログラムは心を動かされるような刺激的な学びの場となり、水管理に関する革新的な解決策を追求する自信とスキルを与えてくれました。
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202591日、広島-Mohammed Albadriさんは、イラク南部出身で、大学で医用生体工学の学位を取得したばかりです。彼は自国が抱える食料不安問題を解決したいと考えており、その実現手段の一つとして、ハイドロゲルを利用して水を節約し、農業システムをより持続可能なものにするという構想を持っています。国連ユニタールの「エジプト、イラク、レバノンにおける食料安全保障と経済発展の促進のための起業家精神とイノベーション」研修事業は、その構想を実現するためのスキルの習得を後押しするものとなりました。

農業における水不足問題に挑む新たなアプローチ

Mohammedさんは、大学近くの川の水位が気候変動により日に日に下がっていくのを目の当たりにし、独自に解決策を模索するようになりました。

イラクでは極度の干ばつが続き、Mohammedさんの故郷でも水不足の問題はとても深刻です。特に農業は、作物や家畜に必要な水が十分に供給されないという現実に直面しています。

水は農家の人たちにとって最も重要なものです。

近年、水不足という問題が深刻化しており、それはイラクでは非常に緊急を要する問題だとMohammedさんは語ります。

Mohammedさんにはある構想がありました。大学で医用生体工学を学んだ彼は、ハイドロゲルという素材に着目し、これを土壌の保水に活用できるのではないかと考えました。医療分野では、ハイドロゲルは水分や栄養分を吸収して傷口を湿潤状態に保つことで、創傷被覆材の性能向上に用いられています。彼はこれを農業にも応用すれば、土壌が水分を吸収、保持できるのではないかと考えています。この技術により、水の使用量を削減しつつ生産量を維持することができると期待しています。

自分の専門分野であるハイドロゲルの特性に着目しています。ハイドロゲルを使うことで水の使用量を減らし、水管理に役立てられるのではないかと模索しています。

彼は、自身の研究に農業や水資源管理への熱意を結び付け、水不足問題を軽減するためのこの革新的な解決策を生み出しました。

国連ユニタールでの刺激的な学び

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Mohammedさんは、同研修の修了生でもあった大学の指導教官から勧められ、「エジプト、イラク、レバノンにおける食料安全保障と経済発展の促進のための起業家精神とイノベーション」研修事業に参加しました。このプログラムは、日本政府の支援によって実施され、3か国の若手起業家たちが起業の基礎知識と高度なスキルを学び、経済発展の一助となり、食料不安の解消に取り組む力を養うことを目的としています。

このプログラムの第1、第2フェーズであるオンライン研修で、Mohammedさんは起業とアグリビジネスについて学び、自身のアイデアを具体化しました。彼は上位17名の優秀な参加者のうちの一人として選抜され、第3フェーズである202524日から11日まで日本で開催された対面ワークショップに参加しました。現地研修では、日本の技術や開発の先進性に触れるさまざまな場所を訪れました。

プログラム開始時から、とても競争心をかき立てられ、もっと深く学び、さらに挑戦しようという意欲が湧きました。

Mohammedさんは、この研修での自身の経験を「非常に感銘を受けた」と表現しています。特にClare Gately博士やMichael Fors博士など、豊富な経験を持つ講師に直接質問できる環境を大変ありがたく感じたといいます。質の高い教材と実践的な体験が組み合わさったこのプログラムを通じて、Mohammedさんは新たに得たスキルとともに、強い意欲を持って帰国の時を迎えました。

チューターの先生たちは、たとえ私たちがくだらない質問をしても根気強く真剣に対応してくれました。普段であれば、評価されたらどうしよう、何を言われるだろう、と臆して尋ねられないような質問もあったのですが、そんな心配は無用でした。私たちは、聞きたいと思ったことを何でも自由に尋ねることができました。

食料生産改善への可能性

Mohammedさんは、自らのアイデアがイラク国内のみならず中東地域で幅広く応用可能であると考えています。もしこの構想が実現すれば、食料生産を向上させ、農家の耕作意欲を高めることにつながり、それによりイラクの食料安全保障の強化が期待できます。

彼は、日本政府と日本国民の支援のおかげで、刺激的で心に残る経験を得られたことに深く感謝しています。そして、自分のように目標を持って何かを達成したい人たちに、国連ユニタールの研修プログラムに参加することを強く勧めています。

本記事の執筆には国連オンラインボランティアDaica G. Principeさんが協力しました。

About UNITAR

国連訓練調査研究所(ユニタール)は、1963年の設立以来、研修事業に特化した国連機関として、世界各国の人材開発を支えています。2024年には、約55万人が受講。ジュネーブ本部のほか、ニューヨーク事務所、広島事務所、ボン事務所があり、様々なネットワークをもっています。2019年からは持続可能な繁栄局(Division for Prosperity)のもと、広島事務所と、ジュネーブ本部の財政・貿易ユニットの職員がともに、起業やリーダーシップ、貿易と金融、デジタル技術、軍縮などについてプログラムを展開しています。紛争後復興の過程にある国の人々への研修などには、原爆投下後から現在の平和都市に至る過程を一つの復興モデルとして講義に組み込むなど、平和で公正な社会の実現にも貢献しています。

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