- フィリピン出身で、大学で美術を教えているAndre Magpantayさんは、芸術と環境、そして記憶がどのように結びつくのかについて強い関心を持っています。
- Andreさんは、広島県および広島市の支援を受けて実施された2025年の国連ユニタールの研修プログラム「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」を受講しました。
- このプログラムを通じてAndreさんは、地理情報システム(GIS)、生成型AI、教育版マインクラフトを、ストーリーテリングや創作活動に活かす手法を学びました。
- デジタルストーリー作品の制作では、日本とフィリピンにある2つの被災都市の物語を取り上げました。
2026年2月10日、広島-Andre Magpantayさんは、フィリピン出身の大学講師で、芸術と環境、そして芸術と記憶がどのように結びつくのかをテーマに研究を行っています。2025年には国連ユニタールの研修プログラム「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」に参加し、デジタルツールを用いて記憶を記録し、人々の復興を支え、将来の災害の予防や平和の促進へとつながる物語を伝える方法を学びました。
アート、ストーリーテリング、記憶の探求
長年にわたり、Andre Magpantayさんは、伝統的な物理的メディアや空間におけるストーリーテリングと記憶をテーマに活動してきました。しかし彼は、こうしたアプローチには根本的な限界があることにも気づいていました。それは排他性です。物理的な作品や空間は、地理的条件やアクセスの制約によって限られた人々にしか届かないという課題があります。この問題意識からAndreさんは、デジタルツールを活用することで物語が届けられる範囲を拡大すれば、過去の記憶や物語を、物理的な場所に縛られることなく、より多くの人々と共有できるのではないかと考えるようになりました。
そうした関心の中で彼の目に留まったのが、国連ユニタールの研修プログラムでした。「このプログラムではストーリーテリングを扱いますが、単なる物語制作ではありません」とAndreさんは語ります。彼は、自身の研究活動にどのようにテクノロジーを統合すれば、人々に物語を伝える方法をより効果的なものにできるのかを学びたいと考えていました。
国連ユニタールの研修を通じて、Andreさんはデジタルツールの可能性を探求し、記憶を記録し、人々の復興を支え、将来の災害の予防や平和の促進へとつながるストーリーテリングの在り方について理解を深めました。
広島での変革
2025年に実施された国連ユニタールのプログラム「SDGsとデジタル未来:AIとデジタル・ストーリーテリングで切り拓く変革」研修は、アジア各地および広島から集まった若者たちが、AIやデジタルツールを活用してSDGsの推進につながるストーリーを発信する方法を学ぶ場となりました。原爆投下から80年という節目に開催されたこのプログラムは、2025年6月から11月にかけて、広島県および広島市の支援のもと実施されました。オンライン学習と広島でのスタディツアーを組み合わせ、参加者はそれぞれデジタルストーリー作品を制作し、11月に開催された公開ワークショップで発表しました。
広島での4日間の滞在中、Andreさんは原爆ドームや平和記念資料館を訪れ、記憶を継承し、歴史を伝えていくために、さまざまな機関や行政がどのように連携して取り組んでいるかを学びました。広島に実際に足を運んだ経験は、文献を読むだけでは得られなかった理解をもたらしました。
「広島に滞在し、街が時代とともにどのように変化し、記憶がどのように受け継がれてきたのかを目の当たりにしたことは、人生観を変えるほどの体験でした。」 – Andre Magpantay、国連ユニタール研修参加者(フィリピン)
この経験は、ストーリーテリングと記憶の力を通じて、持続可能な平和の実現により一層貢献したいという彼の思いを強めました。
新しい時代のためのツール
国連ユニタールの研修は、Andreさんに、彼自身が「変革をもたらすための3つのツール」と呼ぶ、新たな技術ツールについての紹介がありました。それが、地理情報システム(GIS)、生成AI、そして教育版マインクラフトです。GISを用いることで、データや画像を空間的な文脈の中で提示することができ、人々の経験が環境とどれほど密接に結びついているかを可視化することができます。一方、生成AIはしばしば抵抗感をもって受け止められることがありますが、Andreさんは、機関がこれを倫理的に活用する方法を学ぶことで、人々の働き方や暮らしを改善する可能性を持つツールになり得ると考えています。
中でも、教育版マインクラフトは最も意外性のあるツールの一つでした。一般的にはゲームとして知られていますが、Andreさんは紛争や災害といった複雑で扱いの難しい物語を子どもたちに向けて伝え、共有するための、魅力的で創造的なツールとして活用できる可能性を見出しました。
並行デジタル探訪:荒浜からタクロバンへ
デジタルストーリーテリングの制作プロジェクトにおいて、Andreさんは生態学的危機に関するこれまでの研究や、人々が災害体験をどのように記憶し、その記憶を将来の防災に活かしてきたのかについての知見を踏まえました。彼はGISを使って、2つの場所をデジタル上で並行してたどることを試みました。一つは2011年の東日本大震災と津波の記憶を後世に伝える目的で震災遺構として保存されている日本の荒浜小学校、もう一つは2013年の台風ハイエンによって壊滅的な被害を受けたフィリピンのタクロバンです。Andreさんはこれら2つの物語をデジタル空間に配置することで、被害の規模を示す単なる数字を超えて、現場で実際に何が起こったのかという「物語」に焦点を当てたいと考えました。
「物語により深く共感できると、単なる数字を読む以上に多くのことを理解できるようになり、そこに生きる人々とのつながりを身近に感じられるようになります。」
アートと記憶の教育・研究へのデジタルツールの統合
Andreさんは、日々の教育や研究活動に加え、展示やキュレーション業務においてもデジタルツールを積極的に取り入れていく予定です。また、広島の物語を学生たちと共有し、授業の中で振り返る時間を設けたいと考えています。テクノロジーを活用して物理的な壁を越えることで、集団の記憶や物語が広く共有され、人々の心に共鳴し、持続可能な平和の実現に向けて重要な役割を果たし続けることを、Andreさんは目指しています。
国連ユニタールについて
国連訓練調査研究所(ユニタール)は、研修事業に特化した国連機関です。2024年には、世界中で約55万人が受講し、より良い未来の実現のために世界各国の人材育成を支えています。ジュネーブ本部のほか、広島、ニューヨーク、ボンに事務所を構え、世界中にネットワークを持っています。詳しくは国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所ウェブサイトをご覧ください。