Sonath Abdul Sattarさん。2017年国連ユニタール防災研修修了生 (モルディブ共和国)

Sonath Abdul Sattarさんは、2004年にインド洋大津波がモルディブ共和国を襲ったときのことを思い起こします。

私たちは津波というものをまったく知らず、ただの大きな波だと思っていました。そして、ことの成り行きをただ見守っていたのです。海水が外海に引いていくと、環礁が見えるようになりました。まもなく、大津波が押し寄せ、死んだ魚やすべてのものが運ばれてきました。まったく津波に警戒していなかったのです。

インド洋大津波の発生は、Sonathさんの人生の中できわめて重要な瞬間でした。その後、Sonathさんは母国の救援のためにボランティア活動を始めました。そして、防災管理分野でのキャリアをスタートさせました。このキャリアパスが最終的に、Sonathさんを国連ユニタールの津波防災に関する女性のリーダーシップ研修への参加と来日に導きました。

気候変動の危機に直面するモルディブ

Pixabayから画像引用:JonnyBelvedere

モルディブ共和国は、世界で最も低地にある小島嶼開発途上国であり、地表からの平均の高さは海抜わずか1.5メートルです。気候変動と海面上昇により、島全体は以前より大きな海面のうねり、強風、豪雨にさらされています。災害への備えは、国の存続や人々の生存のために不可欠です。

Sonathさんは、2017年の国連ユニタール「津波防災に関する女性のリーダーシップ研修」に参加しました。現在は日本で学んだことを取り入れて、母国の災害への対策を強化しています。世界的にみても、災害はまず女性に打撃を与え、その影響は長期にわたります。Sonathさんが発揮している女性のリーダーシップにより、女性特有のニーズの確保や、よりインクルーシブで効果的な防災・減災対策につながっています。

日本の自然災害から得た教訓

Sonath Abdul Sattarさん(モルディブ共和国出身)

2004年のインド洋大津波以前は、モルディブの人々にとって、「災害」を表す現地の言葉がありませんでした。モルディブ政府は2006年以降、災害リスク管理法を可決。さらに、2018年には国家災害管理局を設立し、災害リスク管理体制の整備を進めています。

Sonathさんは、モルディブ赤新月社に勤めて5年目で、「津波防災・減災に関する女性のリーダーシップ研修(DRR)に参加しました。国連ユニタールの研修は、小島嶼開発途上国の女性専門家向けに、防災・減災の観点から女性のリーダーシップを養うことを目的に行われています。日本政府が支援する国連ユニタールの研修目標は、女性リーダーがコミュニティ全体における、ジェンダーの特有の能力・適正や脆弱性を理解することです。研修修了生は、その見識をモルディブ全域で活かしながら、災害への備えや復興を支えています。2016年以降、この研修は太平洋およびインド洋の小島嶼国出身の約200名の女性リーダーを育成してきました。

国連ユニタールの研修を通じて、日本が2011年の東日本大震災や津波などの災害被害を受け入れ、得られた教訓を防災・減災対策に活かしているかということに関して、Sonathさんは心を打たれました。

東日本大震災の被害は甚大だったようですが、それでも前を向いて進めようとしているように見えます。 日本の人々は、震災の経験を手本として子どもたちに示すことで、知恵を受け継いでいるのですね。(あの時)こうできていたのかもしれない、という思い。それでも、これから何か起きたときにできることがある。

子どもたちを通してコミュニティ全体に働きかける

防災・減災対策のヒント:リーダー向け

国連ユニタールの研修で、阪神・淡路大震災記念館を訪れた日、小学生たちが地震について熱心に学んでいる様子に、Sonathさんは感動しました。

子どもたちは家に帰って両親に今日学んだことを話すでしょう。その両親は祖父母に話して、防災・減災のメッセージが伝わっていく。モルディブでは、私の祖父母の世代は、津波が来ても、きっと何をすべきかまったくわからないでしょう。でも、私の世代は少なくとも、両親に知識を伝えることができ、両親も祖父母に伝えられる。このようにすれば、防災・減災の知識が全世代に届きますね。

モルディブに戻ったSonathさんは、2004年のインド洋大津波で壊滅的な被害を受けた島に住む子供たちと、国連開発計画(UNDP)モルディブ事務所が行っている一週間にわたる津波対策訓練を手伝いました。

モルディブでは10年以上経ってもなお、大津波へのトラウマによりその経験について語ることに大きなためらいのある人もいます。「脳の奥に絶対に開けたくないロッカーがあり、そこに大津波が隠されていたようです」。Sonathさんはこう語ります。しかし、Sonathさんや国連職員は、子どもたちが津波や災害に備えるべきだと地域住民を説得しました。

Sonathさんは、子供たちを通して地域社会に働きかけることの効果を実感しました。 「子供たちがとても防災・減災対策に興味を持っていたので、一週間にわたりずっと、島の住民全体で津波への備えについて話し合いました」。Sonathさんはこう続けます。

子供たちは、家に帰って祖父母にこうたずねるはずです。この緊急電話番号を知っていたかな。 緊急キットに何を入れておけば良いかわかっているかな」。

臨機応変でシンプルな変化を

アッドゥ市議会メディア

国連ユニタールの研修を通して、災害リスク管理がいかにシンプルで応答性が高いものになり得るかをSonathさんは学び取りました。

  • 仲間同士の連携を大事に:「耳が聞こえなかったり、歩けなかったりする障がい者がいるかもしれません。拡声器で何度呼びかけても、耳の不自由な人には聞こえません。だから、その人が見当たらないときに探しに行く人を決めておかなければならないのです」。その結果、コミュニティ全体で、緊急時にさまざまな障がいのある人々を支援するための訓練を受けたボランティアのグループを立ち上げました。
  • 計画の更新: 国連ユニタールの研修では、宮城県の大川小学校と荒浜小学校を訪問しました。2011年の東日本大震災当時、大川小学校では避難していた生徒と教師84名が亡くなるという悲劇が起きました。一方、荒浜小学校では避難した320名が助かりました。その理由は、2010年のチリ地震による津波を受けて、荒浜小学校が避難計画を見直していたためでした。「計画を変更することは可能です。それだけのことなのです。計画は定まったものではないのですから。予想や結果に応じて変更することができます」。
  • 地元住民の知識を活用:1854年の大地震の後、日本のある地主は、村人が津波から逃れるために、自分の田んぼにある干し草に火をつけ(て津波を知らせ)たという話をSonathさんは回想しています。

「高度な技術は必要ありません。自分にできることはいつも必ずあります」。Sonathさんはそう説明します。

災害管理とコロナウィルス対策

研修修了生が、モルディブの不法滞在の移民にCOVID-19ワクチン情報を配布

コロナウィルスのパンデミックにより、Sonathさんは、赤新月社でいそがしくボランティア活動をしています。Sonathさんは災害管理の専門家として、不法滞在の移民もコロナウィルスにかかわる支援を受けられるように働きかけています。また、市当局と協力して、企業が社会的距離を置いてロックダウンの措置をしっかり守ってしているかどうかをくわしく調べています。

コロナウィルスへの対応には特有の課題があります。例えば、感染症への恐怖により、災害に対応するボランティアの不足が生じています。しかし、災害管理の専門家であるSonathさんは、コロナウィルスへの対応もまた災害管理サイクルの一部分であることを理解しています。

防災・減災対策の一環として、気候変動に取り組む

HRF Youth's、CC BY-SA 4.0

Sonathさんは、避難訓練には限界があると指摘します。モルディブのほとんどの島には避難できる高い場所がなく、津波が島の片側からすぐに反対側に押し寄せる可能性があるからです。「ヤシの木に登れるようにならないといけないかもしれませんね」とSonathさんは冗談を言います。

その地理的条件により、災害への備えには、環境保護や気候変動への対応も含まれていなければならないとSonathさんは考えています。そのためには、マングローブの木を植えたり、ビーチの砂を取ったりしないように住民を教育することや開発を見直すことなどが必要だと考えています。

Sonathさんは災害管理コンサルタントとして、地元の政府関係者に、住宅やサッカースタジアム、空港を建設するために森林が伐採された島々の空撮低速度写真を見せています。「木を切らず、海のうねりのある地域にも新しい住宅地を作らないでください」。Sonathさんはこう伝えています。

防災・減災対策のヒント:個人向け

2004年のインド洋大津波は、モルディブ国民にとって、決してぬぐい去ることのできない心の傷を残してしまいました。

インド洋大津波の光景は、今でも心に強く、はっきりと浮かびます。あなたが津波の話をすると、いまだに鳥肌が立ってしまいます。大津波の心理的トラウマは、今も心の中にあるのです。私たちは、そのことをただ口にしないだけです。

インド洋大津波の生々しい記憶は、次の災害がモルディブを不意に襲うことのないように、Sonathさんがコミュニティ全体のレジリエンス向上と環境保護する活動をつづける動機になっています。

  

国連ユニタールとは

国連ユニタール持続可能な繁栄局は、日本政府の支援を受けて、小島嶼国の女性リーダーが母国やコミュニティの災害リスクを軽減するための戦略を立てる手助けをしています。

日本政府は、2021628日に第9回太平洋島嶼国首脳会議(太平洋・島サミット)を開催し、太平洋諸国の首脳がパートナーシップや共通の課題について話し合うことになっており、太平洋の小島嶼開発途上国(SIDS)は日本にとって重要なパートナーです。

Tags
Disaster Planning
Women Empowerment

シェアする