• Ahmed Hassaneinさんは、エジプトで農業廃棄物から有用な資材を製造開発するスタートアップを起業しました。
  • 彼のスタートアップは、農家のコスト削減、収穫量の向上、水使用量の削減を支援するものです。
  • 彼は2024年に国連ユニタール「エジプト、イラク、レバノンにおける食料安全保障と経済発展の促進のための起業家精神とイノベーション」研修事業に参加し、ビジネススキルを強化し、国際的なネットワークを築きました。
  • Ahmedさんは、自身のスタートアップを世界的に展開し、アグリテック分野において持続可能な革新を推進することを目指しています。
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2025817日、 広島 — エジプトのアスユートで育ったAhmed Hassaneinさんは、小規模農家が直面している苦境を身近に見てきました。生産性の低さと経済的な不安定さを理由に、多くの農家が土地を手放し、より安定した収入を求めて離農し新たな道を探す姿を目の当たりにし、彼自身の「使命」が芽生えました。それは、伝統的な農業と近代的な持続可能な農業の橋渡し役になるということでした。

生産やプロジェクト管理の経験を持つAhmedさんは、これまで30以上のプロジェクトに携わり、費用効果の改善や革新に取り組んできました。しかし、スタートアップを起業する決断に至ったのは、より持続可能で収益性の高い農業を目指す彼のビジョンがあったからでした。彼のビジネスは農業廃棄物をバイオ由来の土壌改良剤に再生し、農家にとってコストを抑えつつ収穫量を上げ、同時に農地を保全するという持続可能な選択肢を提供しています。

エジプト農業が抱える課題への挑戦

農業はエジプトの主要産業である一方、土壌の劣化、非効率な農法、経済の不安定さにより、小規模農家が事業継続に苦しんでいます。多くの農家が生活費を賄えずに土地を売却することで、それが商業用地に変わるケースも珍しくありません。
Ahmedさんは、この深刻な状況を持続可能な方法で改善したいと考えています。農業廃棄物を有用な資源に再生し、活用にすることよって、彼のスタートアップは2つの課題に取り組みます。化学肥料への依存を減らすこと、そして土壌の改良です。これにより、農家の収入を向上させるだけでなく、エジプト農業の将来の持続可能性を支えることができます。

持続可能な未来の構築

Ahmedさんのスタートアップが支援したベヘイラ県での試験的プロジェクトは、農業研究センターや国家研究センターの協力のもと、水使用量が30%減、投入コストが40%減、収穫量が3040%増という結果になり、また、農薬使用が完全にゼロという成果を生んでいます。
これらの成果を通じて、持続可能な技術革新がエジプトの農業を変える可能性があると実証されたのです。さらに、カーボンクレジットの活用による追加収益の可能性を見据え、農業が魅力ある職業として継続する道を開いています。

抵抗と不安を乗り越えて

有望な成果が得られたとはいえ、Ahmedさんの道は決して平たんではありませんでした。特に、何世代にもわたって伝統的な農法に頼ってきた農家にとって、新しい技術を受け入れることは決して容易なことではありませんでした。変化への抵抗に加え、バイオ資材に関する政策面での未整備が、広範な導入の妨げとなっていました。

さらに、地域の情勢が不安定なことは、海外の投資家の信頼を揺るがし、長期的な資金調達の障壁となっています。それでも彼は試行錯誤を重ね、主要関係者に自身の革新がもたらす具体的なメリットを示し続けています。

国連ユニタールとの出会いが生んだ転機

転機となったのは、国連ユニタール「エジプト、イラク、レバノンにおける食料安全保障と経済発展の促進のための起業家精神とイノベーション」研修事業との出会いでした。同事業は、中東・北アフリカ地域における持続可能な食料システム構築への貢献を目指す起業家に、実践的なスキルと知識を提供することを目指し、日本による支援を受けて実施されました。

Ahmedさんは、オンラインで実施された第1フェーズでビジネス戦略とSDGs連携の基礎を学び、第2フェーズでチームや農村コミュニティに利益をもたらす財務モデルを構築しました。そして20252月、優秀な成績を修めたAhmedさん他16名の参加者は、8日間にわたる日本での対面ワークショップに参加しました。彼が得た最大の学びは、自身のスタートアップを潜在顧客や投資家に効果的にプレゼンする方法でした。技術的な説明をやめ、顧客の視点に立ってメッセージを伝えるという手法にシフトしました。これは、彼のこれまでのマーケティング手法を刷新する極めて重要な戦略でした。また、グローバルな展開に向けたパートナーシップの重要性を理解し、それを踏まえた持続可能なビジネスモデルを構築しました。その結果、国際ビジネスの視野が大きく広がりました。また、自身の製品の価格設定が低すぎたことにも気づき、価格設定も見直しました。

日本で受けたサポートは驚くべきものでした。東京イノベーションベース(TIB)を訪問した際には、私たちのプロジェクトを推進するために必要なすべてが整っていると実感しました。

Ahmed Hassanein、国連ユニタール研修修了生(エジプト)

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持続可能な起業モデルへ

Ahmedさんは、挑戦を続ける若い起業家たちをこう励まします:

前へ進み続けてください。試行錯誤の連続だと思いますが、それを乗り越えれば、必ず成功を掴むことができるはずです。

Ahmed Hassanein、国連ユニタール研修修了生(エジプト)

彼は日本で受けた支援と歓迎に深く感謝し、今後のプログラムでは日本のスタートアップとの交流や知識交換の機会の導入を望んでいます。

国連ユニタールでの研修経験を武器に、Ahmedさんはリーダーシップ、ビジネスの専門性、財務管理のスキルのさらなる強化を志しています。工学の知識と戦略的な知見を融合して、スタートアップの世界展開を果たし、持続可能な農業の分野でリーダーとなることを目指しています。Ahmedさんの姿は、正しい考え方と信頼できる人的ネットワーク、そして柔軟な適応力があれば、小さなアイデアでも世界を変える革新に変わるということを示してくれます。

本記事の執筆には国連オンラインボランティアFreya Davide Campagnolaさんが協力しました。

国連ユニタールについて

国連訓練調査研究所(ユニタール)は、1963年の設立以来、研修事業に特化した国連機関として、世界各国の人材開発を支えています。2024年には、約55万人が受講。ジュネーブ本部のほか、ニューヨーク事務所、広島事務所、ボン事務所があり、様々なネットワークをもっています。2019年からは持続可能な繁栄局(Division for Prosperity)のもと、広島事務所と、ジュネーブ本部の財政・貿易ユニットの職員がともに、起業やリーダーシップ、貿易と金融、デジタル技術、軍縮などについてプログラムを展開しています。紛争後復興の過程にある国の人々への研修などには、原爆投下後から現在の平和都市に至る過程を一つの復興モデルとして講義に組み込むなど、平和で公正な社会の実現にも貢献しています。

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