2021年6月10日・広島 ― 新型コロナウイルスの危機は、これまで世界が進めてきた持続可能な開発目標(SDGs)への歩みを妨げ、後戻りさせている。いまだ、パンデミックによる影響の全容は把握しきれていない。一方で、私たちが望む世界を2030年までに実現させるために、どのような行動を起こしていくのか、自身に問いかける機会も与えてくれていると言える。
上智大学のオンラインシンポジウム「コロナ禍のSDGsへのインパクトと今後の展望」での基調講演で、国連事務次長補兼国連ユニタール総代表ニキル・セスはこのように語りました。
上智大学大学院の植木安弘教授がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、国連開発計画(UNDP)インド常駐代表の野田章子氏やUNDP駐日代表の近藤哲生氏を交えて議論。学生など247人がオンラインで聴講しました。
セス総代表は、SDGsの17項目すべてについて、新型コロナウイルスによる現時点での影響を解説。貧困、気候変動、国際協力など多岐にわたる目標のすべてがパンデミックの打撃を受けており、世界中で格差が拡大している現状を伝えました。コロナ禍で約1憶3,200万人もの人々が慢性的な食糧不足に苦しみ、2014年以降徐々に増え始めた飢餓人口の増加に拍車をかけています。
「2015年に開催された国連サミットで、170を超える加盟国首脳の参加のもと、持続可能な開発のための2030アジェンダと持続可能な開発目標が採択されました。しかし今それは、遠い夢のようなゴールになりつつあります」とセス総代表はかみしめます。パンデミックはこれまでの価値観を見直し、私たちが人類や地球の問題を解決していくことに向けて本気で行動を起こすきっかけになっています。世界各地のコミュニティが、弾力的な回復に向けて素晴らしい力を発揮しています。そして今最も重要なのは、すべての人がワクチンを受けられるようにすることです。
「新型コロナウイルスのパンデミックは、人々の健康と幸せのため、特に途上国の人々のために世界中が力を合わせて協力する必要があるということを証明しました。しかし、私たちは十分に責任を果たせていません。国際的な協力を推進するためには『より良い復興』の概念をさらに広げていく必要があります」とセス総代表は語りました。
また、今後取り組むべき課題について、政府、地方自治体、民間企業などの様々な分野をまたいだ協力が不可欠であると説明しました。低炭素かつインクルーシブな社会を目指し、環境保全に取り組むことが新しい雇用を生み出し、ジェンダー平等を推進すると強調。「SDGsを達成し、2030年までにより良い世界を目指すためには、一人一人が行動を起こすことが重要です」。参加者に一層の努力を求め、講義を締めくくりました。
ユニタールとは
国連訓練調査研究所(ユニタール)は研修事業に特化した国連機関として、世界各国の人材開発を支えています。国連ユニタール持続可能な繫栄局・広島事務所では、発展途上国の社会問題を解決したいと願うチェンジメーカーを対象として、国際的なレベルで学ぶ機会と知識を提供しています。特に、若者や女性への支援を通じて、豊かでインクルーシブかつ持続可能な社会の実現を推進していきます。そして、ユニークな学習方法や知識の共有を通じて地方・地域・世界レベルで様々なパートナーと連携しながら、格差拡大の解消に取り組み、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献していきます。
上智大学通信 第453号 2021年7月5日発行および上智大学国連Weeks June, 2021 実施報告でも解説されています。