Edappで学ぶコースの一場面

2021年3月10日・広島 ー 今年度の国連ユニタール広島事務所/国連ユニタール持続可能な繁栄局による核軍縮・不拡散に関する研修が3月2日に始まりました。核兵器禁止条約の発効新戦略兵器削減条約(新START)の延長など新たな兆しも芽生える一方、新型コロナにより世界的な交渉の場自体が狭まり、核軍縮に関する議論が停滞するなど課題も深刻です。交渉技術を学ぶニーズは引き続き高く、今回新たにオンラインのコースを開発いたしました。ウェビナーや「EdApp」を活用したモバイルでの講習、交渉を実践的に学ぶ小グループでの学びなどを予定しており、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)コンサルティングアドバイザーのタリク・ラウフ氏をはじめとする専門家や同事務所が拠点を置く広島の方々の協力を得て練り上げられたものです。

なかでも、昨年100周年を迎えた世界的な自動車メーカー・マツダ株式会社(本社:広島県安芸郡府中町)には、被爆から復興、躍進へと歩む道のりについて貴重な写真やエピソードをご提供いただき、地域の人々やひとつひとつの企業の尽力が広島の再建を成したことを、研修生が肌で感じ取れる内容になっています。

2019年に行われたマツダの小飼雅道代表取締役会長とユニタール総代表のニキル・セスとの会談についても、あわせてご覧ください。

ユニタール総代表のニキル・セスが2019年に来日した際、マツダ株式会社の小飼雅道代表取締役会長と会談しました。持続可能な開発目標(SDGs)について、CO2排出量など技術的な対策にとどまらず、人々の共生や、平和で公正な社会を実現するための人材育成など、幅広く協議を行いました。

新型コロナウイルスが猛威をふるう今、私たちの社会、そして世界は大きく変わろうとしています。危機と向き合い、乗り越えるための指針として、SDGsの重要性はさらに高まっています。

かつてSDGs構築を指揮した第一人者でもあるセスが、民間企業の新たな挑戦について聞きました。

原爆の惨禍乗り越え 100周年のマツダ

小飼雅道代表取締役会長(右)とニキル・セス総代表(2019年、広島県府中町)

セス:平和都市広島が、SDGsの都市にもなっていくことを願っています。著名な大企業がSDGsに取り組まれると、他の企業への波及にも期待が膨らみます。ともに広島で活動する私達のパートナーシップが強化され、今後協働していけるなら。マツダがこれほど有名なグローバルブランドになるまで、どのような道をたどってこられたのでしょうか。

小飼氏:マツダは2020年、100周年を迎えました。その節目となったのは1945年8月6日。原爆投下で広島は焼け野原になりますが、マツダ(広島県安芸郡府中町)は爆心地から離れていたため、強烈な爆風で窓ガラスの破壊等があったものの被害は比較的軽微ですみました。4か月後には、取引先の協力を得てトラックを作り始め、復興に使っていただきました。広島には昔からものづくりの伝統があり、チャレンジ精神があります。様々なステークホルダーに支えられながら、グローバルで年間160万台を生産できるまでになりました。

サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030:SDGsへの責任

セス:サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030を採択されたとか。2030年はSDGsのアジェンダの年でもあります。重なる部分がありますか。

小飼氏:サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030は、地球・社会・人の課題を解決する技術やインフラに対する考え方や道筋を示したものです。中核にあるのは「人」。運転したり乗ったりして心と体を元気にすることができる商品を作りたい。「社会」については、乗っている人や外にいる人の安全・安心を徹底的に追求し、すべての人・地域で、自由に移動し、心豊かに生活できる仕組みを創造したい。「地球」については、環境保全の取り組みにより、豊かで美しい地球と永続的に共存できる未来を築いていきます。CO2排出量の改善目標を明確に持っており、その軸をぶらさずに研究開発する。生産拠点からの排出量の改善も重要です。私たちの社会課題の解決に向けた取り組みは、結果的にSDGsの目標達成に貢献すると思っています。

気候変動に立ち向かう: 電気自動車や自動運転技術の本質的な意味

セス:気候変動について世界的に憂慮が広がっています。科学者たちも、人類の排出が招いたこととして、個人の車への依存を減らすなどライフスタイルを変えるよう求めています。もちろん、エネルギーの効率化、排出量の減少も重要です。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は2050年までにCO2排出量を70~90%減らすことを勧告しています。とても難しい目標です。ガソリンへの依存度を下げ、電気自動車などに移行することについてどのように考えていますか。

小飼氏:メディアでは、電動化の割合や、電気モータと内燃機関の二者択一、という議論になってしまいがちです。我々はクルマのライフサイクル全体でのCO2排出量削減に取り組みます。Tank to Wheel(燃料タンクから車両走行まで)という車両走行段階だけではなく、Well to Wheel(燃料採掘から車両走行まで)という、エネルギーの採掘、製造、輸送段階のCO2排出評価も組み入れた視点でのCO2排出量の削減を進めていきます。企業平均CO2排出量を、2010年比で2050年までに90%削減することを視野に、2030年までに50%削減を目指します。

セス:電気自動車にはまだ課題もあります。たとえばバッテリーに関して、レアメタルへの依存や廃棄についてどのようにお考えですか。

小飼氏:一番問題だと思うのは、バッテリー製造時に使用する莫大な電力です。今後は廃棄コストも問題になる。そのビジネスモデルはまだ十分に構築できていません。いかに省エネで作るか、いらなくなったバッテリーをどのように再活用するか、そういった循環モデルについて研究している最中です。

セス:安全についてもお聞きしたい。SDGsには、2020年までに交通事故による死傷者を半減するというターゲットがあります。自動運転の技術など、この分野にどのように貢献されていますか。

小飼氏:研究を進めているところですが、自動運転にどれだけするのかという「手段」ではなく、人の命を守るために何が必要かという発想が重要です。今売っている車については、ドライビングポジション、視界視認性などの基本安全技術を追求し、ドライバーの最大の運転能力が発揮できる車を作り上げています。また、前方・後方・側方の人・車を感知して、危険が迫ったら運転する人に知らせる、間に合わなければ自動で止まる、という先進安全技術の搭載まで完了しています。今開発しているのは、急病などでお客様が運転する能力を失った、という状況で自動運転に移行する技術です。

SDGsへの取組:高齢者への視線・パートナーシップ

セス:SDGsについて、エンジニアリング以外の側面についても取り組まれているとか。日本も含めて多くの社会で、高齢者が増えています。若者が都市に向かい、年配の人などが地方に取り残されることもあります。運転能力が限られ、移動手段へのニーズも異なります。この点については。

小飼氏:高齢で運転できない方に自動運転を、という「手段」ではなく、人が人を支える「社会」にしたいと思っています。今、広島県北部に位置する三次市の地区をモデルケースに実験をしています。JR三江線がなくなり、公共交通機関が利用できないご年配の方々が多くいます。そこで、我々の商品をお貸ししています。コネクティビティ技術を活用しモバイル端末等のアプリで要請すれば、運転者が迎えにきて、病院や駅に連れていってくれる。無人のロボット自動車が来るより、人がサポートするというのがやはり一番と思っています。

セス:SDGsについて多くのことを成し遂げておられることをお聞きしてうれしく思います。さて、この目標には、技術的なソリューションだけでなく、経済の発展、多様なすべての人がともに生きる社会への歩み、環境保護、平和で公正な社会を作ることも含まれています。このような課題について、一企業としてのサプライチェーンの改善を超えて、世界に寄与するような取組があるでしょうか。国連とマツダが将来のパートナーシップを視野に連携分野やアイデアは。

小飼氏:国内外の全拠点で、その町一番の会社になりたいと思っています。単にテクノロジーで車の革新を、というだけではなくて、地域コミュニティにオープンな企業になって、ステークホルダーのみなさまと強い絆で結ばれたブランドになりたいと考えています。従業員一人ひとりが、マツダを取り巻く全てのステークホルダーの要望や期待に応えるよう努力していかなければなりません。日々の事業活動を通じてCSRの取り組みを推進していくことができるよう、従業員ひとりひとりの成長をサポートしていきたいと考えています。

セス:何か研修システムを開発されるなら、喜んで協力したいと思います。SDGsにはどのような意味があり、企業のあらゆる活動にどう関係しているのか。SDGsは会社のマネージメントをあらゆるレベルで支えるものですから。また次回広島に来させていただくときには、マツダとのパートナーシップが何か生まれているといいと思います。

小飼氏:はい、ありがとうございます。今までさまざまな機関がそれぞれに指標を提示しています。その中で、国連という国際機関が今回SDGsという形で17の明確なゴールと169のターゲットを示したということを大変ありがたく思っています。

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