元国際原子力機関(IAEA)核検証・安全保障政策課長のタリク・ラウフ氏が、核兵器禁止条約発効についてのメッセージを寄せてくれました。ラウフ氏は、国連ユニタール持続可能な繁栄局/広島事務所が2015年から実施している核軍縮・不拡散のための研修事業の講師を務めており、本年度はオンラインでの研修を3月に予定しています。
記事:タリク・ラウフ
2021年1月21日・オーストリア、ウィーン - 核兵器開発および使用から約75年が経過した2021年1月22日の夜明けとともに、核兵器禁止条約が発効し、新時代の幕開けを迎える。
2020年10月24日、ホンジュラス共和国の批准により核兵器禁止条約 (TPNW) の批准国が50か国となり、90日後の2021年1月22日に条約が発効されることとなった。同条約は、2017年に加盟国の過半数を上回る約130の国と地域が賛成し、ニューヨークの国連本部で採択されたものである。
1946年1月24日の第1回国連総会で採択された決議第1号である核兵器および大量破壊兵器の廃絶を求めた決議がようやく実現する。
2021年の核兵器禁止条約発効により、1975年に禁止された生物兵器 (BTWC)、1997年に禁止された化学兵器 (CWC) と並び、3つの大量破壊兵器の開発や使用等が禁止されることとなる。
核兵器禁止条約は核兵器の開発、実験、保有、取得、使用、威嚇をいかなる場合にも禁止する。
現在核を保有している中国、フランス、インド、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、ロシア、英国、米国の9か国は、保有する核兵器等をすべて廃棄した後で、または定められた期限までに核兵器を廃棄する義務を果たすことを前提に、条約に加盟できる。
すべての締約国は、国内の原子力活動が平和目的に限り行われ、核兵器開発につながる未申告の原子力活動がないことを確認するために、国際原子力機関 (IAEA) と包括的保障措置協定を締結する。
1945年に世界で初めて核爆弾が投下されて以来、2017年までに全世界で2050回以上の核実験が地表・水中・地下・大気中・大気圏外で実施されてきた。締約国は、自国の管轄下で行われた核実験および核爆弾の被害者に支援を提供する責任を有する。
核不拡散条約 (NPT)、包括的核実験禁止条約 (CTBT) や、将来の兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)と同様に、核兵器禁止条約は核軍縮を達成するために「実効性のある措置」であると、同条約を推進する人々は位置づけている。
核兵器禁止条約は、NPTやCTBTに加え、ラテンアメリカおよびカリブ地域、南太平洋諸国、東南アジア、アフリカや中央アジアで締結されている非核兵器地帯条約(NWFZ)を補完し強化するものとなっている。
また、2000年と2010年の再検討会議で合意されたNPT第6条の核軍縮交渉義務の履行を補完し実施するものでもある。
つまり、核兵器禁止条約は核兵器を禁止し非合法化することにより核兵器に悪の烙印を押し、核廃絶を進めようとするものである。ローマ教皇フランシスコは、2019年に核兵器の非人道性を強く世界に訴えた。
国連総会第1号決議で「核及びその他の大量破壊兵器の廃絶」を国際社会の最優先目標に掲げて以来、1995年、2000年と2010年のNPT再検討会議、非核兵器地帯条約やCTBT、核兵器の人道的影響に関する国際会議(2013年オスロ会議、2014年ナジャリット会議、2014年ウィーン会議)や2017年の核兵器禁止条約の交渉の場でこの目標が議論されてきた。
核兵器禁止条約の発効は、核兵器がいかなる状況下でも二度と使用されないよう保証するための唯一の方法であるという国連発足当初の議論から一巡して元の位置に戻ったと言える。
核兵器禁止条約は「事故、誤算又は設計による核兵器の爆発から生じるものを含め、核兵器が継続して存在することがもたらす危険に留意し、また、これらの危険が全ての人類の安全に関わること及び 全ての国があらゆる核兵器の使用を防止するための責任を共有することを強調する」。
また「核兵器の壊滅的な結末は、十分に対応することができず、国境を越え、人類の生存、環境、社会経済開発、世界経済、食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし、及び電離放射線の結果によるものを含め女子に対し均衡を失した影響を与えることを 認識する」。
原爆の後遺症に長年苦しんできた被爆者や核実験による被害者、赤十字国際委員会 (ICRC)、医師、科学者、若者、学者などを含む世界各国の市民社会が核兵器廃絶を前進させる機運をつくり、最終的な条約の採択に重要な役割を果たした。これまで連携し、積み重ねてきた各地の市民社会の努力を称え、2017年に核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN) にノーベル平和賞が贈られた。
核抑止力に頼る安全保障を支持している多くの人々や、核兵器禁止条約に反対する核保有国、特に北大西洋条約機構(NATO)は、今後の人類存続のためにラッセル・アインシュタイン宣言や下記の被爆者の悲痛な叫びに耳を傾けることを心から願う。
広島に投下された原爆の被爆者であるサーロー節子さんが2017年12月10日のオスロのノーベル平和賞受賞式で行ったスピーチはもはや無視することはできない。
今でも9つの国が都市を燃やし尽くし、地球上の生命を破壊し、私たちの美しい世界を未来の世代が住めないようにすると脅しています。核兵器の開発は国家の偉大さを証明することにはなりません。むしろ、邪悪の深みに転落することを意味しています。このような核兵器は必要悪ではなく、絶対悪なのです。責任ある指導者であれば必ずこの条約(核兵器禁止条約)に署名するでしょう。署名しなければ歴史に汚名を残すことになるでしょう。彼らの抽象的な理論はそれが大量虐殺に他ならないという現実をもはや隠し通すことはできません。「抑止力」は軍縮の抑止としか見なされません。私たちは恐怖のキノコ雲の下で暮らすべきではありません。全世界の大統領と首相にお願い申し上げます。この条約(核兵器禁止条約)に参加して下さい。そして、核による世界の滅亡の脅威を根絶して下さい。