- Iryna Markinaさんは2023年、国連ユニタールの「生計強化のためのポーランドのウクライナ人女性避難民向けデジタル・リスキリング」研修事業に参加しました。
- ウクライナ出身のMarkinaさんは、現在は保険会社の営業部長としてポーランドで在宅勤務をしています。
- 新しいデータ分析と地理情報システム(GIS)のスキルを活用している彼女は、ITの活用能力は年齢で決まるものではないと考えています。すでに専門的な経験を積んでいることが、新たなデジタルスキルをよりうまく統合するのに役立っていると述べています。
- 同研修事業では、ポーランド在住のウクライナ人女性約500人が、就職において需要の高いデジタルスキルを習得し、就業能力を高めました。
2024年11月22日、広島 - Iryna Markinaさんは、ウクライナで16年以上にわたり、営業職で成功を収めてきました。しかし故郷の治安が悪化したため、彼女は家族数名を残してトルコ、そしてポーランドに移住するという難しい決断を迫られました。彼女は慣れない文化的規範の中、家族の安全への心配も絶えず言葉の壁や不確かな未来を乗り越えなければならないという課題に直面しました。
Markinaさんは徐々に、彼女と同じような経験を持つコミュニティとつながり、地元の人々と関係を築くことで適応していきました。現在はポーランドのワルシャワに住み、保険会社の営業部長としてリモートでチームを率いて売り上げを伸ばし、顧客との強い関係も築いています。
新たな分野への挑戦
Markinaさんは、経営や営業の分野で豊富な経験を積んできましたが、情報技術(IT)スキルの重要性が高まっていることも認識していました。そこで彼女は2023年、国連ユニタールの「生計強化のためのポーランドのウクライナ人女性避難民向けデジタル・リスキリング」研修事業に参加しました。デジタルスキルを身につけることで、変化し続ける世界の中で必要とされる存在であり続けることを目指したのです。
彼女は、専門知識の能力開発向上の機会を調べる中で、この国連ユニタールのデジタル・リスキリング研修を見つけました。この研修は、受講者の就業能力の向上を目指し、需要の高いデジタルスキルの強化に重点を置いていました。日本政府の資金提供を受けて2023年10月から2024年3月まで実施されたこの研修事業では、ウクライナ人女性500人以上が、データ分析、ウェブデザイン、サイバーセキュリティなどについて学びました。
Markinaさんが研修で重点的に取り組んだのは、ウクライナ・カトリック大学(Ukraine Catholic University)および日本のスタートアップ企業株式会社Eukaryaとの提携のもとで実施された、データ分析と地理情報システム(GIS)のコースでした。彼女は、これらのトピックが現代のビジネス環境にとって極めて重要だと考えました。Markinaさんにとってはまったく新しい分野でしたが、このチャレンジに意欲を燃やし、自分の仕事に応用したいと強く思いました。
私は常に自分自身に挑戦することを信条としてきました。データ分析とGISは、まさに自分の限界を押し広げるために必要な挑戦でした。このような複雑なテーマをマスターしようという試みには、不安もありましたが刺激的でもありました。―Iryna Markina、国連ユニタール研修修了生(ウクライナ)
Markinaさんは、データ分析とGISの重要性が今後ますます高まると考えており、これらを学ぶことは、彼女の既存のスキルと経験を補完するだけでなく、さらなるキャリアアップのための新たな機会を開くことにもなると考えています。
彼女は、この研修が実践的なスキルに重点を置き、現実世界での応用や実践的な体験を重視している点を高く評価しました。日本、ポーランド、ウクライナの企業、学術機関、非政府組織(NGO)など、多様な事業パートナーから得られる国際的な視点が融合された独自性にも感銘を受けました。
年齢は問題ではない:経験とデジタルスキルの融合
この研修は、Markinaさんの仕事への取り組み方に変化をもたらしました。データ分析を応用して業務を効率化し、GISを活用して市場動向を分析し、彼女の仕事のスタイルは、よりデータ主導型になったのです。この研修は、彼女の職場での効率を向上させただけでなく、複雑な問題に取り組む自信を与えてくれたと言います。
この研修は、私の仕事への取り組み方を変えてくれました。新しいツールや手法を日々の仕事に取り入れ、問題解決能力が向上しました。知識を得たことで、より適応力が高まり、今日のビジネス環境の課題に対処できるようになりました。―Iryna Markina、国連ユニタール研修修了生(ウクライナ)
デジタルスキルをこのキャリアの段階で身につけることは、彼女にとって「強さと活力を与えてくれる機会」だったといいます。Markinaさんは、技術的な専門用語にはあまり詳しくないものの、豊富な実務経験が新しい知識をより戦略的かつ深く統合するのに役立っていると述べています。
Markinaさんは、ポーランドでもウクライナでも、デジタルスキル習得を支援することにより、上級社員がさらに成長する余地があると考えています。彼女は、上級社員と若手社員が互いに学び合うメンター指導のような柔軟な学習機会を提供することで、このギャップを埋めることができると提案しています。
レジリエンスとケアの力
困難に直面しているにもかかわらず、Markinaさんは、ウクライナの女性たちにはレジリエンスがあると信じています。「(研修参加者は)皆、成功しようと決意していました」と彼女は言います。研修参加者は学習が早く、コンピューターを触ったことのない人たちでさえ、複雑なソフトウェアを使いこなす力を発揮しました。
彼女は、研修を通して築いた人とのつながりにも感謝しています。オンライングループを通じて何人かの参加者仲間と連絡を取り合っています。そこで彼女らは、自分のアイデアや雇用の機会を積極的に共有し、支え合い、励まし合っています。参加者たちはこれからも、つながりやコラボレーション、そしてコミュニティ空間を育み続けます。
Markinaさんは日本政府、そして事業のパートナーに対して、資金や研修内容における支援のみならず、「私たちの成長を心から気にかけてくれたこと」に深く感謝していると言っています。
彼女はまた、今後の研修では学習経験をさらに充実させるために、個別指導を取り入れることを提案しています。
英文記事は以下からご覧いただけます。
Power of Resilience: Digital Upskilling for Ukrainian Women in Poland | UNITAR
国連ユニタールについて
国連訓練調査研究所(ユニタール)は、1963年の設立以来、研修事業に特化した国連機関として、世界各国の人材開発を支えています。2023年には、54万人以上が受講。ジュネーブ本部のほか、ニューヨーク事務所、広島事務所、ボン事務所があり、様々なネットワークをもっています。2019年からは持続可能な繁栄局(Division for Prosperity)のもと、広島事務所と、ジュネーブ本部の財政・貿易ユニットの職員がともに、起業やリーダーシップ、貿易と金融、デジタル技術、軍縮などについてプログラムを展開しています。紛争後復興の過程にある国の人々への研修などには、原爆投下後から現在の平和都市に至る過程を一つの復興モデルとして講義に組み込むなど、平和で公正な社会の実現にも貢献しています。